FEATURE 67

柔術とモノづくり Arvie Gimeno | Albino & Preto | Jiu-Jutsu Black Belt

米国カリフォルニアを本拠地に、柔術とライフスタイルの融合をコンセプトに掲げたブランド「Albino & Preto」を主宰するアーヴィ・ヒメノ氏が新年早々、来日。かねてより親交のあるDESCENDANTディレクターの西山が『柔術とモノづくり』をテーマにインタビューしました。

西山 徹(以下 T)アーヴィと会ったのは5年くらい前だったと思います。最初はLAでの、とあるエキシビジョンでした。自分の親戚とも仲良くて、それもありましたよね。ハワイでも過ごしたり。一度、アーヴィの故郷であるグアムへ旅行すると伝えたときには、完璧なローカルリストを作成してくれたことをよく覚えています。あのクオリティはすごかったです。案外そういうことってモノづくりに滲み出てくるんじゃないかと思っています。それ以前に柔術を極めている方だから、そこは絶対だと思うんですよ。柔術のこと、モノづくりのこと、色々聞かせてください。

まずはじめに、柔術を始めたきっかけはなんだったんですか?
アーヴィ・ヒメノ(以下 A)たしか今から18年前、カリフォルニアの寿司レストランで働いていたとき、柔術と出会ったんです。当時は寿司シェフの仕事が忙しく、多くの時間を働くことに費やし、生活サイクルを自己管理する必要に迫られていました。そこで、何かマーシャルアーツでも始めようと、通い始めたのが柔術のクラスでした。同じ頃、ミリタリーテイストのパラコードを使ったアクセサリーブランドを立ち上げ、徐々にレザー製の洗練されたアイテムを展開していこうと頑張っていましたが、柔術と向き合っていくうち、もっと自分自身の好きなものを前面に押し出したテイストに変えていこうと思うようになりました。のちに、AP(Albino & Preto)のデザインではスケートボードやストリートウェアから影響を受けることでバランスを取っていたんだと思います。 T「柔術」というバックボーンがしっかりとあり、それはブランド「AP」のアイデンティティとなっていると思いますが、モノづくりをする上で「柔術」はどんな影響を与えてくれるのでしょうか? A コレクションを作るときにはオーガニックなスローガンを掲げ、今年は“common ground”という言葉を多く使っています。柔術は私の知る中で唯一、人種、性別、宗教、国籍、バックグラウンドで分け隔てられることなく、皆が同じ姿勢で学ぼうとし、1~2時間でも携帯電話やメールから解放されて過ごせるのがいいんです。たとえば一緒に柔術のトレーニングをする人たちの職業をあとで知り、自分には知る由もなかった彼らの世界を垣間見ることでデザインのインスピレーションを得ることも。また好みの音楽もそれぞれ違うような人々に向けてコレクションを製作するのはとてもチャレンジングなこと、その反面とても楽しいことでもあります。APを始めたときには柔術のユニフォームを作ることがゴールでしたが、いまは柔術とライフスタイルの融合したブランドを目指しています。

Tモノづくりのインスピレーションはどんな物事から得ているのでしょうか? 先に語ったように、柔術を通してといったこと以外では、どんなとこからの着想があるのでしょうか? A個人的に情熱を傾けている建築からインスピレーションを得たりします。先日発売したSaucony共同製作のスニーカーでは建築資材にも用いられるテラゾー(人造石)を参考にフットベッドをデザインしました。元々建築を学びたかったんですが、数学が苦手だったので諦め、高校卒業後は調理師学校へ進み、寿司シェフになった経緯があります。そういう経験もインスピレーションとなり、Dickiesとのコラボレーションで反映されたり。あとは妻のシェリルにスーパーマーケットのお遣いを頼まれても、陳列棚に並んでいるパッケージのデザインが気になって、ついつい買い忘れて帰ることがよくあるんです。そういうときはパッケージに印刷されたフォントに集中し、インスピレーションを得ているかもしれません。ちなみに今年発売予定の練習用の道着には「折り紙」とネーミングしましたが、これは幼馴染みのタイスケと一緒に遊んだ折り紙の記憶がインスピレーションになったアイテムです。 Tスーパーの話、とてもよくわかります。スーパーはグラフィックの宝庫ですよね。

Albino & Pretoを代表する柔術のユニフォーム(西山の長男が柔術のクラスに通っていた際、着用した道着)をはじめ、ボマージャケットや刺し子生地のキャップ、STASHとコラボレーションしたベアブリック™やLocals別注のビーチサンダルなど、西山のコレクションから。

TAPではバックボーンである「柔術」を具現化した「着」がその中心となっていて絶対外すことのできないアイテムとして存在しますが、個人的には抽象的に表現されたアイテムもとても好きです。 A“Jiu-Jutsu”と大きくプリントすることなく、いかに柔術のテイストを伝えられるかを約20年考えてきました。たとえば何の変哲もないコットン製のボマージャケットの場合、フロントジップを閉めたとき着物のスタイルになるよう前立てに沿って刺し子をデザインしたり。キャップに使用した刺し子の生地は、柔術をしていれば一目瞭然で、APのロゴがそれを完成させます。それとカラーパレットも柔術の帯の色にちなんだ白、青、紫、茶、黒をラインナップ。他にも紫と黄のコンビはLAレイカーズのチームカラーだったり、ニュートラルな色はミリタリーの要素が含まれたりしていますが……。 Tアーヴィのカラーパレットのムードは自分がDESCENDANTでセレクトするパレットにとても近いように思えます。先日、古着屋を一緒に回った際も結構選ぶものがカブってました。最後に今後のプロジェクトについて話せる範囲で教えてください。 A柔術のエッセンスが染み込んだライフスタイルブランドとしてのコレクションでは、オンザマット/オフザマットの双方で着られるアイテムを展開します。その他、日本のスニーカーショップやアパレルブランドとのコラボレーションも計画中です。皆さんにも喜んでもらえるような発表がもうすぐ出来ると思いますので、お楽しみに。 Tオンザマット/オフザマット、テーマが良いですね! 個人的にもとても楽しみにしています。今回はありがとうございました。

Arvie Gimeno
| Albino & Preto | Brazilian Jiu-Jutsu Black Belt
1983年、米国グアム生まれ。柔術との出会いは2000年頃、トレーニングを開始したのが2004年頃、寿司シェフとしての仕事に忙殺されていた生活を整えようと柔術のクラスに通い始めたのがきっかけ。その後、本格的に取り組み、柔術の黒帯を取得。2011年には柔術とライフスタイルを融合したブランド「Albino & Preto」設立。コレクタブルな柔術のユニフォームからライフスタイルを反映した柔術テイストのアイテムをコレクションで展開する他、近年ではSTASHやMedicomをパートナーにコラボレーションを手掛ける等、話題に事欠かない。柔術の達人でありながら、そのインスピレーションの源はヒップホップ、建築、グラフィティ、現代アート等、多岐にわたる。
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